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日本酒の“ホット販売不可”の常識を覆す!あらゆる場所で販売を可能にする業界初の技術を取り入れた「ホット販売専用」日本酒誕生秘話 ~新しい海外展開への期待~

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 日本盛が2017年10月に発売した「燗酒(かんざけ)ボトル缶180ml」(以下、燗酒ボトル缶)は業界で初となる「ホット販売専用」の日本酒です。それまで、コンビニや駅ナカ売店といった店頭での温かい日本酒の販売はなく、カップ酒をレンジでチンしてもらう方法しかありませんでした。

コーヒーや紅茶のように、ホットドリンクとして日本酒を販売できなかったのには、理由があります。一定期間、加温し続けても色や香りが変化しにくい日本酒が開発されていなかったからです。

●日本盛 研究室員 櫻井

この「ホット販売は不可」という日本酒業界の常識を覆したのが、日本盛の「燗酒ボトル缶」です。ホット販売ができる日本酒を実現させた技術が国内特許を取得しました。日本盛ではおよそ30年ぶり、2度目の快挙です。そこで、今回はあらためて燗酒ボトル缶の開発秘話、特許取得にまつわるストーリーを研究室の櫻井がお話しします。

「高温で保存させる清酒の製造方法及び保存方法」の国内特許を取得

PR TIMES


業界初の「ホット販売可能な日本酒」誕生の背景

燗酒ボトル缶の構想を始めたのは2011年秋。燗酒用の商品はこれまでにも各社で開発が進められてきましたが、お茶のようにあたためた状態で販売されているものはなく、「温かい日本酒をすぐに手に取れて飲める商品を作ろう」という話になりました。

そこからコンセプトを考えるのに約1年を要し、2012年秋に開発をスタート。目指したのは、「すぐ飲めて、ふたを閉められる手軽に楽しめる日本酒」です。

コンビニでカップ酒を温めてもらえば、熱燗を飲むことはできます。

しかし、従来のカップ酒はなみなみと注がれているため、開封して飲む際にこぼれないように気を付けなければならない上、ペットボトル飲料のように、飲みかけでもふたを閉められません。

せっかく新商品を開発するなら、この課題も解決したいと考えました。また、レンジであたためてもらう時間を待たずに済む、というのもホット販売可能な日本酒の利点になると思っていました。


構想から実現まで6年。燗酒ボトル缶ができるまで

日本盛における燗酒ボトル缶の開発は主に3人で行いました。ポイントは、(1)メイラード反応を抑えること、(2)老香を発生しづらくさせることの2点。

冒頭でも触れたように、日本酒は加温した状態で一定期間保存することが難しいものです。日本酒の味わいを生み出しているのは糖とアミノ酸なのですが、これらは加熱されるとメイラード反応と呼ばれる褐色物質を生み出す反応を起こし、日本酒の着色とそれに伴う香味の変化を引き起こします。合わせて、「老香(ひねか)」と呼ばれる日本酒特有のたくあんの様な劣化臭も発生。その結果、おいしくなくなってしまいます。

コンビニや駅ナカ店舗で販売されているホットドリンクは、2週間が一般的な販売許容期間です。着色や老香問題を解消しなければ、日本酒をホットドリンクとして販売することは難しい。しかし、糖やアミノ酸を減らすと、今度は味わいがなくなってしまう。このバランスをいかに取るのかが開発の難所でした。

2点目の老香問題では、老香を発生させにくい酵母を開発しました。酵母の育種方法には、主に「特定の培地で育つものを取る」「特定の培地で育たないものを探す」の2パターンがあり、今回は後者でしか取得できない酵母でした。育たない酵母を探すためには、かなりの数をこなさなければなりません。ひたすら毎日酵母を培地で育て、探すの繰り返し。ついに2万個以上の酵母から目的の酵母を見つけることができました。

2年ほどで、加温され続けても色があまり変わらない日本酒が完成。しかし、「もっと良いものできるのではないか」とこだわり、さらに2年をかけて改良を重ねました。飲みやすく携帯しやすいボトル缶も並行して開発。トータル5年をかけ、発売へとこぎ着けました。

60℃で保管した 左)特許技術を取得した燗酒ボトル 右)日本盛上撰

それぞれ、左から保存前、2週間後、4週間後


申請から4年。革新的な発明が難しいとされる日本酒業界で2度目の特許を取得

そうして生まれた燗酒ボトル缶。高温で保存可能な清酒の製造方法、保存方法が、このたび国内特許を取得しました。

日本酒は酒税法で原料と製造方法が厳密に定められており、特許の取得につながるような革新的な発明が難しいという特徴があります。酵母や麹に関する特許は他社で特許の取得例がありますが、今回の弊社のような製法を考案しての特許取得は業界的にも非常に珍しいものです。

開発を進める中で、「これは特許が取れるのではないか」という話が浮上。特許の申請は販売前に出さなければならないため、急ピッチで手続きを進めました。申請から4年を経て、無事、2022年1月25日に特許として認められました。

●特許証:「高温で保存される清酒の製造方法及び保存方法」

日本盛の特許取得はおよそ30年ぶり。前回の記憶がある社員がいないものですから、皆で喜び合い、お祝いの言葉をかけてもらえました。

日本国内で醸造したSAKEの味わいを海の向こう側へ

発売から5年目を迎えた燗酒ボトル缶。競馬場近くの駅ナカ売店や観光地、ゴルフ場など、「すぐにお酒を飲みたい場所」で特にご好評いただいています。

一方、コンビニでは「温かい日本酒が飲める」認知度がまだまだ低いのが現状です。コンビニに置いてもらいたいと思っていた背景には、お弁当やおでんなどと一緒に、手軽に温かい日本酒を購入してもらいたいという思いがありました。また、2020年に開催が予定されていた五輪に向けて、日本人だけではなく外国人観光客にも日本酒を手に取ってもらえる機会を作れないかとも思っていたのです。


五輪は無観客で行われましたが、日本のコンビニの利便性は海外メディアから多くの注目を集めました。またインバウンドが戻ってきたとき、外国人観光客にも手軽に日本酒を楽しんでもらいたい。そのためにも、販路の拡大に取り組んで参りたいと思っています。


日本酒を温めて飲んだことがないという日本人の方にも、ぜひ一度燗酒ボトル缶を試していただきたいですね。温かい日本酒は、血流を良くするのですぐに酔いが回ります。少しの量で酔えるということは、体にも負担が小さく、次の日に二日酔いしにくいという利点もあります。日本酒は酒質によって、おいしい温度帯はいろいろ。その点、燗酒ボトル缶であれば、最もおいしい温度で販売していますので、いつでも最高の一杯を味わっていただけますよ。


また、「高温で長時間、品質を保持できる」ということは、外気温が高温でも品質を劣化させることなく日本酒をお届けできることにつながります。日本の酒造りを世界遺産登録しようとの動きが活発化しており、今後、世界中の人に飲んでいただける機会が増えていくことでしょう。そうしたときに、赤道を超えた輸出や、気温の高い国での販売において、出荷したての味をお届けできる

といった点で、今回の特許技術が活かせるのではないかと考えています。


これからも、日本酒をもっと手軽に多くの人に楽しんでもらえるよう、取り組んで参ります。



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